よぎちょぎで「出会った」人々

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タクシーで現れた神サマ

大邱(テグ)に着いた日、
気管支炎をこじらせた私は会うことにしていた友人の家を
探す気力もないほどに弱りきって、
目の前に停まったタクシーに倒れこむように乗った…

運転手さんがトランクから何かを取り出してきた。
しばらくすると車内に安室奈美恵の歌声が流れた。

「日本の方はアムロがお好きでしょう?」

運転手さんはまだ30代前半かと思われる若い男性で「朴(パク)」と名乗った。

「お客さん、体調が悪いんですが?熱やのどの痛みはありますか?咳は?」

ずいぶん細かく聞いてくるんだなぁと不思議に思いながらも彼の‘問診’にこたえていった。

やがて一軒の漢方薬局の前で車を停めた朴さんは真空パック詰めにした液体の韓薬を手にして戻ってきた。

私の症状を薬局で話して調合してもらったらしい。オンドルで温めて飲むとよく効くそうだ。

さっそく代金を渡そうとしたが朴さんは頑として受け取らない。韓薬はふつうの市販薬よりもはるかに高価なのに。

「困っている外国人の役に立ちたいんです。病人からお金などいただけません」

技師食堂(タクシーの運転手さんが集まる庶民的な食堂)に寄って食事もごちそうしてくれた。

朴さんが選んだメニューはバイキング形式だった。

「食欲がないだろうから好きなものだけを食べられるように」と言う、その心配りがうれしかった。

朴さんは食後のコーヒーを飲みながら、体の弱いお母さんと二人暮しをしていると話してくれた。
彼の細やかな心配りはお母さんのお世話をする生活の中で培われたものなのだろうなぁ、となんとなくわかるような気がした。

友人の電話がつながらないので会うのをあきらめた私だったが、朴さんは根気よくあちこちに電話をかけて友人を探し出したうえ、連れて行ってくれるという。

暮れなずむ大邱の街を友人の家を目指して走り出したが、ふと見ると料金メーターが動いていないではないか。

「それではあまりに申し訳ないから」と言うとようやく動かしてくれたが、日本円で2000円にも満たない金額。

これだけが私が朴さんに支払ったお金のすべてであった。

韓国の田舎を旅していると、びっくりするような深い親切心にふれることがあるが、この日出会ったタクシー運転手の朴さんの献身的な優しさは今も忘れられない。


住所大韓民国慶尚北道大邱