travel 長距離バスの旅…‘ジョン’がいっぱい








■「明日はどこに行こうかな…」
安宿のベッドでコンビニのビールを飲みながら時刻表とにらめっこするのが日課だ。面白くもあり、ちょっぴり寂しくもありといったところか。

「外に飲みに行けばいいのに」と言われそうだが、韓国人は決してひとりでは食事をしない。ひとり黙々と食べるヤツは「よほどの事情ありね」と見られるこの国で、女が酒をあおるには相当の勇気を要するのである。

さいわい食品を扱う店であればどこでもアルコールがあるので、お酒のテイクアウトに不自由はしない。
目的地を決めたらさっさと眠り、翌朝はできるだけ早起きしてバスターミナルを目指すのだ。

■ソウルから扶余(プヨ)という小さな町に向かうバスの乗客は私の他にひとりきり。ソウルで買い物をした帰りらしく、大きな荷物をかかえた60歳ほどのアジュンマ(おばさん)だった。

さっそく指定の座席に腰をおろし、朝食がわりに温かい「くるみ菓子(ホドクァジャ)」をほおばる。ホドクァジャはくるみの形をした焼き菓子でカステラ生地の中にくるみの小片が混ざっている。あまり甘くはなくて香ばしい。

前の席のアジュンマが自分の横に来いと手招きしている。
「どうせお客はいないんだからここに来なさい」と当然のように言い、「食事は?」と聞く。

「ホドクァジャが朝ごはんです」
アジュンマはいきなり大きなポップコーンの袋を荷物から引っ張り出し、私の菓子の袋の中にざざざっと入れてくれた。

「あらら、もう…」
うろたえる私におかまいなくアジュンマはさらに入れ続け、ホドクァジャはたちまちテンコ盛りのコーンに埋もれて見えなくなり、入りきらないコーンがバスの床にこぼれ落ちた。
アジュンマは「おあがり」と言うと居眠りを始めた。

■バスの揺れに私もうとうとすること1時間。バスは急に小さな給油所に入ったまま動かなくなってしまった。
見ると運転手は紙コップのコーヒーを片手に店員と談笑しているではないか。このバスに休憩はないはずだから、客が少ないのを良いことに運ちゃんはサボっているのだ。

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